仕事ときどき女の子

仕事も女の子もがんばらなくなりましたが、豊かに生きてます。

お迎えを拒絶した祖母と、この世を拒絶したかった孫

母親から数年ぶりにメッセージが届いた。おばあちゃんが心臓発作を起こしてお迎えが近いから会ってあげてくれと。

コロナ禍になってから地元に帰っていない。コロナが原因ではなく、単純に家族に会いたくないから地元に帰っていないという、ただそれだけだ。いい「言い訳」として十分利用をさせてもらった「コロナ禍だから」もそろそろ使えなくなってきて、目を背け続けてきた本心と対峙することになった。

 

母親から一報をもらったとき、会いに行きたい気持ちと、このまま会えなくてもいいかもしれないと思う気持ちと、真っ二つに割れた。祖母のうちにはよく泊まりにいき、子供の頃はたくさん会って、裁縫を教わったり一緒にお団子を作ったりいい思い出がたくさんある。でもその一方で、あの私の母親を育てた張本人でもあると思うと、複雑だった。すぐにでも会いに行きたいと思えない自分は鬼なのかと思ったりした。

祖母は叔母の家で過ごしていた。家で死にたい、延命治療はしないという希望があって叔母が介護をしていた。叔母は私と母親との関係に理解のある人で、たまに元気でやっているかと電話をしてくれたりしている。だから叔母に電話をして個別に訪ね、祖母に会えばいいだけなのに、気持ちが定まらずに悶々としていた。

 

でも先週あたりに、いよいよ叔母に電話をしようと思い、スマホの連絡帳から叔母の名前を探した。あとは電話ボタンをタップすればいいだけなのに、1時間近く画面を眺めた挙げ句ボタンを押せなかった。

そうやってスマホをただ眺めていたとき、急に友達から着信がきた。

びっくりして1秒くらいで出たもんだから友達も同じくびっくりしただろう。ちょっと誰かと話したくてさ、とのことで話を聞いていた。

ひとしきり話を聞いたあと、最近元気?って言われて、実は今さ…と祖母のことや今ちょうど叔母に電話しようか悩んで一時間経ったって話した。もう会えなくなるかもしれないのに会いたいか迷ってるなんて、人の心がないのかな私って、みたいな話をしたり、最近悩んでいたことなんかを話しながら、自分の思っていた以上に心が切迫していたようで号泣してしまった。

でも友達はあっさりしていて、別に会いたくないならそれでいいんじゃない?そういうになちゃんだとしても別になんとも思わないし嫌いになったりしないし、と言ってくれて、なんだか胸がスッとした。

この話のとき、友達がドラマの「カルテット」でもそういうシーンあったよね確かさ、と言っていて、たしかにそんなシーンがあったなと記憶を蘇らせた。

この回は、すずめちゃん(満島ひかり)の父親の死が迫っている中、父親と確執のあるすずめちゃんは病院の前まで行けるか病院の中には入れない。巻真紀(松たか子)がすずめちゃんを見つけて近くのかつ丼屋でかつ丼を食べるんだけど、「怒られるかな…ダメかな、家族だから行かなきゃダメかな、行かなきゃ…」と悶々とするすずめちゃんに真紀はこう言った。

すずめちゃん、軽井沢帰ろう
病院行かなくていいよ
カツ丼食べたら軽井沢帰ろう
いいよいいよ
みんなのとこに帰ろう

と。で、すずめちゃんは父親に会わずに軽井沢に帰っていった。私もよく覚えていた。

 

友達との電話を切ったあと、カルテットのこの回を観た。少し心の荷が降りた気がした。でも、私がすずめちゃんで真紀に会わなくていいよと言われても、軽井沢には帰れないし帰ったとして多分後悔するだろうなと思って、よし会いに行こうと心が決まったので叔母に電話をし、今日会ってきた。

 

祖母はベッドにいたものの、意識もあって自我も強く持っていたし、数年会っていないのに私のことも覚えていた。心臓発作が起きた数日後から食欲を取り戻して、普通に元気な状態だったという。来てくれてありがとうね、と泣きながら手を握られたときは本当に来てよかったと思った。

数年ぶりに会う叔母は数年分老けていて、老老介護状態でしんどいけど後悔のないように介護をしたいんだということ、独り身の叔母は今後どう生きていくかを悩んでいることや、LINEのアイコンを変えたいんだが、という話までいろいろした。

母親のことも、やっとちゃんと話すことができて、あのときあんなことを言われて傷ついたし人生の足かせになっているということも赤裸々に話し、叔母も叔母で介護を巡ってひどいことを言われて、ひどく傷ついたというエピソードも話してくれた。

しょうがないよ、お母さんも社会の歪みに巻き込まれた人のひとりだしさ、と言ったけど、当時結婚を反対されてもあの人(父親)の家に入ったのだから、人生に責任持つべきだと毅然とした態度で言ってくれて救われた。

その後、持っていったお中元のお茶とおかしを食べながら、叔母のキャリアについて昔話を聞いておもしろかった。これまで、一切そういう話をできていなかった。母親の前では、叔母のキャリアの話などしたら不機嫌になるに決まっているからだ。やっと、大人の私と対等に話が出来るようになったことは、人生の財産だと言っても過言ではないのかもしれない。

 

叔母から聞いたのだが、祖母はある日、夢で祖母の母(私の曽祖母)に早くこっちにきなよと言われたらしいが、祖母はまだ行かないと答えたらしい。

おばあちゃんは、なんでまだ生きたいのだろう、この世をそんなに愛していたのだろうか。もうそんな難しいことを聞いても答えられないだろうが、また来るからねって手を握ったときの祖母から返された握力があまりにも力強くて、また会おうねと返事をしたのだから、まだまだお迎え拒絶なんだろうなと思った。

対して、私はこの世をゆるく拒絶しながら、いつ死んでもまあいいやくらいのノリで生きている。私が死ぬ間際、あの世からそろそろ…なんて声をかけられたとき「あ、まだ行けないんで」と言えるんだろうか。

 

そんなことを考えつつも、今日はいい日だったし、会いに行ってよかったなって心から思えてとてもよかったです。これ以上の語彙などいらず、本当によかったなってただただこの一言だけです。

(どうでもいいけど,おばあちゃんの力強さを感じたら、なんだか揚げ物が食べたくなりモスバーガーでサイドメニューてんこ盛り頼んで一気に食べた。)